長野家庭裁判所上田支部 事件番号不詳 決定
少年 A(昭一七・二・一九生)
主文
少年を長野保護観察所の保護観察に付する。
理由
(非行事実の要旨)
少年は
一、昭和三十五年十一月十九日頃更埴市○○「△の湯」前小路において○本○(当二十五年)と些細のことで口論の末手拳にて同人の顔面を殴打し、又足蹴にする等の暴行を加え、よつて同人に対し全治五日を要する左前額部打撲傷等を与えた
二、Uと共謀の上同日同所において右○本○に対し「仲直りに花をつけろ」等と申向けて、酒食の提供を要求し同人が若しこれに応じないときは更に同人の身体にどのような危害を加えるかもしれない態度を示して同人を畏怖させよつて即日同○○料理店△△こと○本○○方において、清酒、おでん価格金四七〇円相当を交付せしめてこれを喝取した
三、Wと共謀の上、同三十六年五月初旬頃長野市○○町××長野信照金庫○○支店入口において、○田○保管管理に係る同金庫所有の自転車一台(時価金五、〇〇〇円位相当)を窃取した
四、W、Nと共謀の上、同年五月下旬頃更埴市○○△△地籍の小○○雄所有の鯉池より同人所有の鯉一貫匁位(時価金一、〇〇〇円位相当)を窃取した
五、W、N、M、Sと共謀の上、同年五月末頃右小○○雄の鯉池より同人所有の鯉一貫匁位(時価金一、〇〇〇円位相当)を窃取した
六、W、N、M、Sと共謀の上、同年五月末頃更埴市○○△△駅前通り四つ角において、○沢○所有のスパナ二丁外七点在中工具袋一個(時価合計金一、一三〇円相当)を窃取した
七、Aと共謀の上、同年六月二十二日頃、Wが更埴市○○所在○○自動車株式会社○○営業所より窃取した自動車のダブルタイヤ一組を贓物であるとの情を知りながら、更埴市○○××山○○郎方離れ畳敷き物置より、長野市○○所在○○貨物長野営業所まで貨物自動車にて輸送し、以て贓物の運搬をなした
八、M、Wと共謀の上、同年六月二十五日午後六時頃、右山○○郎方物置において、高校生長○○子(当十八年)を強いて姦淫しようと企て、同女を仰向けに押し倒して馬乗りとなり手足を押える等の暴行を加えると共に騒ぐなやらせろと申向け共同して姦淫しようとしたが、同女の強い抵抗にあつてその目的を遂げなかつた
ものである。
(適条)
(1) 傷害 刑法第二〇四条
(2) 恐喝 刑法第二四九条第一項
(3) 乃至(6)窃盗 刑法第二三五条
(7) 贓物運搬 刑法第二五六条第二項
(8) 強姦未遂 刑法第一七九条第一七七条
(要保護性)
少年は以上の非行をなしたことにより、検察官送致の決定をうけ、長期に亘り身柄を拘束され、刑事事件として公判審理を受けるにいたり、はじめて自己の責任の重大さを感ずるようになつた。
そのため刑事裁判所では少年に反省改悛の様子がみえるので保護処分に付し、その更生を計る余地があるものとして、この事件を当裁判所に移送してきた。
そこで当裁判所は昭和三十六年十一月十五日少年を調査官の観察に付し、その後の様子を観察してきたところ、初期においては自己の生活態度を改め、更生について真剣に考え、家業の木工業にまじめに従事し、夜遊びや不良交友などについてもよく慎んで安定した生活を続けてきていた。
しかし、同年十二月頃より、他所に勤めに出て働きたいと言いだしたり、また朝寝をして時々、仕事の始業時間に遅れるようなことがあつて、不規律な生活を好む従来の傾向が窺われるようになつた。
少年は近く成人に達するが以上のような行動経過ならびに非行歴にかんがみて、その性格上の欠陥は容易に改められるものではなくその矯正には長い時日と適切な指導、監督が必要であることが認められ、また、このような場合における保護者の保護能力はこの少年に対して十全とはいえない。
よつて少年法第二四条第一項第一号、少年審判規則第三七条第一項により主文のとおり決定する。
(裁判官 柏原允)
別紙(地裁の決定)(長野地裁上田支部 昭三六・一〇・一〇決定)
主文
本件を長野家庭裁判所上田支部に移送する。
理由
本件公訴事実は別紙のとおりであり、右公訴事実は検察官提出の本件各証拠によつてこれを認めることができる。
よつて被告人の処遇について考えてみるに、
被告人はすでに満十九歳を半ば過ぎた少年であり、すでに昭和三十四年一月頃から道路交通取締法違反、銃砲刀剣類等所持取締法、狩猟法違反、暴行の各非行により長野家庭裁判所上田支部において審理をうけ、それぞれ審判不開始ないしは不処分の保護処分をうけていたところ、さらに別紙公訴事実第一およぴ第二の傷害、恐喝の非行を犯し、昭和三十六年二月八日両支部において試験観察に付されていたものであるが、その後右試験観察中である昭和三十六年五月始め頃から同年六月末頃までの間に右公訴事実第三ないし第八の窃盗、贓物運搬、強姦未遂の各非行を繰り返し、本件審理をうけるにいたつたもので、その非行癖は顕著である。被告人は更埴市○○高等学校入学以来、不良交遊、喫煙、飲酒等を続けてその素行がおさまらず、昭和三十三年十一月頃右高校を中途退学したのであるが、その後バーや映画館に出入して夜遊びをし依然として素行がおさまらないのみか、いわゆる同市内の不良グループと交遊してその仲間に入り、そのリーダー格として次第に暴力的非行性を身につけるにいたつた。本件各犯罪も一見して明らかなように同年輩の年長少年による共同犯行であつて、いづれも日頃交遊して知り合つている同僚仲間である。加えて、前記試験観察により家庭裁判所調査官の面接をうけた数日後に本件第八の強姦未遂事件を起していることが認められ、従来の家庭裁判所による保護処分が何等その効をあげていなかつたことが認められるのである。
しかしながら、このような被告人の非行の原因は、被告人の不純な外部的な生活環境によることは勿論であるが、被告人の父母が少年をあまやかして育て、前記のような少年の素行についても充分な監督指導をせず、かえつてそのなすがままに委せていたことがその遠因をなしていることが伺われるし、このような父母の態度が被告人の性格にも影きようし、次第に自己中心的、攻撃的、自己顕示的傾向の強い性格が形づくられるにいたり、このようないわゆる我ままで無軌道な性格が被告人の日常の生活行動を支配し、本件各非行を犯すにいたつた原因をなしていることが推測されるのである。被告人はたび重なる非行を何等反省することなく、家庭裁判所の保護処分もそれほど意に介することもなく、依然として仲間グループと不節制な生活を続けていたものであり、刑事々件として本件審理をうけるにいたり、はじめて自己の責任を感じ、反省改悛している様子が見受けられるのである。
ところで被告人の本件各非行の情状についてみると、その犯情は特にきよう悪なものとも思われないうえに、公訴事実第一、第二の傷害、恐喝の事実、第四、第五の窃盗の事実および第八の強姦未遂の事実については被害者とのあいだに示談が成立しており、その他の事実についても被害品が還付されて実害が発生していない実情であり、また被告人と行動をともにした他の共犯者もそれぞれ保護観察処分をうけて更生の道を歩んでいることが認められる。一方被告人の家庭は、更埴市において相当の木工業をいとなみ、経済的にも恵まれ、父母はじめ兄姉妹は皆健全で近所の評判もよいし、物質的な社会基盤においては欠けるところがない。父も将来は被告人に家業に従事させたいとのべている。
以上の諸点を考量してみると、被告人の本件各犯行の責任は重大であり、その非行癖は根深いものがあるが、一方その更生に期待をもつことも必ずしも不可能ではないと考えられるので、この被告人を刑事処分に付するよりは今一度家庭裁判所の審理をうけ適切な保護処分によりその健全な育成をはかることが相当であると考える。よつて少年法第五五条を適用して本件を長野家庭裁判所上田支部に移送することとし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 草深今朝重 裁判官 柏原允 裁判官 佐々木一雄)
別紙 公訴事実(略)
(長野家裁上田支部決定書理由中非行事実一ないし八と同一)